26 キラは嫌悪と緊張に震える手を押し殺し、漆黒のズボンの前立てにそっと手を伸ばした。 服の上からでも解る逞しく引き締まった筋肉を指に感じながら、ぎこちなく銀色のボタンを外す。 慣れていない人間が他人の服を脱がせるのは唯でさえ簡単ではないが、覚束ない指先はさらにその作業を困難にした。 自然にしんなりと柔らかな弧を描く眉が寄せられる。 そして自らの手で開いたその前立ての中のものを意識したとき、キラの眉間にはくっきりと皺が刻まれた。 今まで普通の男として生きてきて、こんな同性同士のセックスを考えたことなど一度も無い。 だが手を止めるわけにも行かず、キラは無意識に息を止め、まだいささかも反応を示していない王のものに触れ、窮屈な布の中から取り出した。 「・・・・・・っ・・・」 改めて目にすると、それはひどく醜悪なものだった。それは生物学的にはキラ自身と同じものであるはずだが、とてもそうとは思えない。 指に伝わる感触とその温度に総毛立つ。 だがこれで終わりではない。始まりですらない。 キラはことさらゆっくりと身を屈めた。 王の男根を目の前にし、こみあげる吐き気を必死になだめるが、それはあまり成功したとはいえない。 生理的嫌悪に紫の瞳を微かに潤ませるが、キラはゆるやかな動きを止める事無く、キラにとっては不快感の象徴であるそれへ、唇をつけた。 キラの形良い柔らかな唇の感触を喜び、王のそれは微かにキラの手の中で感触を強くする。 瞬間、キラの表情は隠しようもなく歪み、更に目には涙が浮かんだ。 その反応、表情を余す事無く見下ろしていた王が、冷笑と共にキラに言葉を投げる。 「いい格好だな。」 まだ肌の多くを包帯に隠してはいるが、急所を晒した全裸になり、男の膝元に這いつくばって口淫を受け入れている自分。 王の言葉はまさにその状況を見事に揶揄していた。 とはいえ、今のキラに反抗は許されない。 「・・・おそれいります。」 「だが、お前も男ならそれで満足できる訳が無いことは解るな?」 それは、もっと深い口淫を要求するもの。キラに許された返答はこれしかない。 「・・・はい。」 唇をつけるだけで途方も無い拒否反応を起こしたというのに、これ以上はもはやキラの想像を超えていた。 何より、返答のために唇を離した今となっては、もう一度それを実行するのは酷く気力を必要とした。 嘔吐感を助長する雄の臭いと、唇に伝わった嫌悪以外の何物でもない感触。 それを知りながらもう一度その行為を行うのために、キラの正常な感覚は再び少しずつ麻痺していく。 嘔吐感からか過剰に分泌される唾液を飲み込み、それと一緒に吐き気を飲み下すと、キラは再び王のものへ唇をつけた。 そして今度はそれだけでなく、唇に熱を溜めはじめたものの温度がなじみ始めた頃、息を止めて舌を差し出した。 なんともいえない味が舌を刺激し、今度こそ咽喉に苦いものがせり上がる。 「・・・どうした。」 キラの思うことなどお見通しなのだろう。思わず止まった動きに王の楽しげな声がキラの耳を打つ。 「い、え・・・なんでも・・・ありません。」 なんとか歯を食い絞めて吐き気をやり過ごし、気合を入れなおすように大きく息を吸うと、キラは再びの行為を再開する。 開き直ったようにその動きにはもう躊躇はなく、キラは自分の手の中で張り詰めていく王の男根へと再び舌を絡ませた。 キラは至って従順に王のものを慰め始めた。 それはお世辞にもうまいとは言えないもの。 が、今までかしずかれて生まれ育った王子が屈辱に耐えての行為と思えば、王の征服欲は満たされ快感はいや増した。 キラが王の股間に顔をうずめている格好であるため表情は見えないが、それを思うだけで背筋にゾクリとしたものが這い上がってくる。 下肢に血液が溜まり、手を添えずとも男根が天を向くほどになると、アスランはキラの肩に手を置いた。 「もういい。」 「・・・・・・は、い・・・。」 苦しさからだろうか、僅かに途切れた返答。 ゆっくりと身を起こしキラは伏しがちに繊細な顔をあげたが、表情には冷たく凍る殺意すら含んだ怒りが張り付いていた。 普段は春の花のように穏やかな瞳から押し殺しきれない殺気が紫電のごとく激しくほとばしる。 小気味良い強い視線に煽られ、アスランはニヤリと笑うとキラの肩を掴んで押し倒した。 「・・・っ!」 手荒な行為に開いた傷が疼いたのかキラは小さな声を上げたが、王は全く気にした様子もなく噛み付くようなキスを仕掛けた。 驚きキラは目を見開くが、冷たい唇は一瞬で離れる。 それにどんな意味があったのはキラには図りかねたが、のしかかり至近距離から見下ろしてくるぎらついた緑の瞳からして、キラに優しい意味ではなさそうだった。 その予想を証明するように、一瞬絡まった視線はすぐに切れ、王はキラの痣が浮いた首に顔を埋めた。 生温く濡れた感触が首筋に伝うその感覚は到底快楽に結びつくものではなく、表情を知られる事がないのを良い事に、キラは思い切り顔を顰めた。 だが、アスランはそんなキラに構う様子はなく、咽喉から肩、胸元へと、血が滲むほどきつく歯を立て、包帯に覆われていない白い肌を吸う。 愛撫とはとても言えない荒々しい行為にキラはぎゅっとシーツを握り締めてそれに耐えた。 特に抵抗する意思は無かったのだが、シーツを握りこむ際に僅かに腕が動いたのが気に食わなかったのか、動きを封じるように王はキラの腕を掴みベッドへと押し付けた。 それと同時に、キラの膝を割り、足の間に身体を割り込ませる。 男相手に興奮できるその神経にまず驚くが、雄としての本能をむき出しにしたような激しさには、キラは嫌悪の中に恐怖を感じた。 それに、イザークという存在から解っていることだが、王は男を抱くことに慣れている。 受け入れるなどは論外だが、受け流すことすらままならないキラを王は翻弄した。 全身を這い回る冷たい手と唇。 腕を押さえつけていた手を離し、咽喉の奥に押し込めた悲鳴を堪える為に食い絞めていた唇を割り、指をねじ込んで口内を犯した。 唇を開かされ、思わず抑えていた声を上げそうになるが、なんとかそれを飲み下す。 想像以上に不快な感覚に息つく暇もなく、キラはひたすら、まるで命綱のようにただシーツを握り締めていた。 「・・・ん・・は・・・・・っ!」 不意に、キラの舌を嬲り弄ぶ為に口に含ませていた指が引き抜かれる。 キラは息苦しさから開放され大きく息を吸い込むが、次の瞬間狼狽し慌てて肘をついた。 唾液でしとどに濡れた王の指が、キラの尻の奥へと触れたのだ。 「・・・っ!」 嫌悪感から青ざめたキラの頬が一瞬にして羞恥に紅潮した。 「今更。理解していなかった訳じゃないだろう。」 僅かな抵抗に王は不快気に眉を寄せ、身体で割った足を無造作に広げると、機械的に右膝裏をグッと持ち上げてきた。 自然、肘を突いて起こした上半身はベッドに沈み、無防備に秘所が晒される。 言ったところで願いが聞き入れられるはずが無いと解っていながらも、思わず待ってくれという声を上げそうになったその時。 「・・っあ!!」 容赦なく王の指がねじ込まれ、キラは硬直し堪えきれない悲鳴の一端を唇から上げた。 |