序


鳴り響く地響き。

不気味な振動を伴ったそれは、酷く不安を煽るものだった。

地震の前触れのようにも思えるが、それは、ある種天変地異よりもはるかに恐ろしく、危険を伴ったものとして、この国を飲み込もうとしていた。

オーブ王国。

それは、SEEDと呼ばれる大陸の中央に位置する、古くから続く独立国である。

周囲の国々は戦乱の度に勃興を繰り返す中、この国はオーブ独自の道を貫き、したたかに生き残ってきた。

他国への不干渉不可侵を・・・永世中立を明確に宣言し、その一方で、侵略に備えて強固な軍を備え。

そうして、オーブはもう百年近い年、自国を軍靴に踏み躙られる事もなく、繁栄した。

・・・しかし。

大陸の西、プラント王国に新たな王が君臨して後、世界は急速に変わっていった。

プラント王の名を、アスラン・ザラという。

幼い頃より聡明さと武勇を謳われ、温厚な人柄ゆえに国民にも慕われていた王。

しかし、前王の急逝により若干16歳のアスランが王となって後、彼は変貌した。

前王の喪が明けると同時にアスラン王は兵を挙げ、小競り合いをしつつも均衡が保たれていた西方の国々は、次々とプラントに攻め落とされていった。

たしかにプラント王国はもともと強国ではあったが、アスランが王となるまではこれほどまでに圧倒的な力は持たなかった。

ならば、なぜプラントがそれほどまでの軍事力を手に入れたのか。

恐ろしいことに、当初その殆どがアスラン王の軍事的才能によるもの。そして、いくら国を滅ぼそうとも満足することがないような、貪欲なまでの支配欲の為せる技だった。

そして、プラントに滅ぼされた国は、財産は没収され、民は奴隷として徴用される。みずから進んで降伏した国は、多少待遇は良いものの、国民は三等市民とされ、税も重く兵役の義務が課された。その反面、技術を持った工匠は優遇する。

そうして当初は一地方の強国でしかなかったプラント王国は瞬く間に膨れ上がり、大陸の半分近くを席巻した。

その頃には、プラントに標的にされた国は、もはや滅ぶしかない状況となっていた。

此処まで、アスランが玉座についてから7年。

大陸の均衡は破られ・・・戦に飽きることを知らぬプラントの手は、永世中立を謳う、オーブへと伸ばされた。


・・・それは、すべてを平らげねば飢えが満たされぬ悪魔の指のように。